■日本経済新聞9月24日掲載
かつて、奈良・唐招提寺御影堂の宸殿の間に端座した瞬間、心が青く染まったような感覚に陥った。
二十㍍にわたって展開する東山魁夷の襖絵「濤声」の海景の青が、見る者を包み込んだ。
今、東京・日本橋高島屋の「田村能里子展」
(二十九日まで)の会場に身を置くと、
人は朱に染まったかと思うかもしれない。
そこには、京都・嵐山の天龍寺塔頭・宝厳院の再建になった本堂の襖絵「風河燦燦三三自在」
五十八面が並んでいる。
基調色は赤。黒染めの衣に枯山水が定番の禅寺を荘厳する大胆な赤。
「タムラレッド」の異名をとる総延長六十㍍の赤い画面に描かれているのは、三十三の人間群像である。
おじいさんや女性、子供などがさまざまな姿態でくつろぎ憩っている。この三十三と言う数は何だろうか。
「法華経」に、観音が自在の神力を用い、三十三種に身を変え衆生を救う「三十三身」と言うことが説かれている。
この三十三の人方は人であって人ではないのではないか。
仏性の依り代としての人なのではないか。
会場には画業を回顧して人物像二十七点なども並んでいるが、それら濃彩の描写とは異なり、
襖絵の人物は淡く描かれ、どこか幽き風情が漂っている。
どの人物も羽衣のように薄く白い衣を身にまとわされている。
そこに画家の深いたくらみがあるような気がしてならない。
今から二十年前、中国・西安のホテルに壁画第一作「二都花宴図」を描いて以来、
この襖絵が、田村能里子の壁画・襖絵の五十作目に当たるという。
一年半余、都内の窓なしのスタジオにこもって描きあげたそうだが、
何か大きなものに背中を押されながらの画業のように思えてならない。
痛快、旺盛な腕力である。名古屋・京都を巡回する。
■日本経済新聞2008年9月22日掲載
田村能里子展を皇后さまが鑑賞
皇后さまは二十二日午前、日本橋高島屋(東京・中央)で開催中の大本山天龍寺塔頭(たっちゅう)
宝厳院本堂再建襖(ふすま)絵完成記念「田村能里子展」(日本経済新聞社主催)を鑑賞された。
同展は京都・嵐山にある天龍寺の塔頭寺院「宝厳院」の本堂再建にあたり、、大型客船「飛鳥」の壁画などで
知られる洋画家の田村氏が描いた襖絵全五十八面を展示。
皇后さまは約三十分間、時の移ろいをモチーフに独特の赤色を使った全長六十メートルの大作を、
熱心に見て回られた。
■日本経済新聞 2008年9月20日掲載
アートシーンライフ
田村能里子展
◆禅宗寺院、生き生き彩る
京都・嵐山にある本山天龍寺の塔頭寺院「宝厳院」が本堂を再建するにあたり 洋画家・田村能里子氏が手掛けた襖絵
『風河燦燦 三三自在』を初公開する 展覧会「田村能里子展」が日本橋高島屋で開催中だ。
女流洋画家が禅宗寺院の襖絵を任されるのは初めてのことといわれるが、 田村氏の壁画第一作である
中国・西安にある唐華賓館の「二都花宴図」 (にとかえんず)を見た宝厳院住職が熱望して、実現した。
「生きた仏」を描いてほしいと言う住職の願い通り、三十三体の人が 生き生きと描かれている。
本展では襖絵五十八面を会場内に再現して展示。 奉納後は襖絵の全貌を見ることができなくなるため、
今回の展覧会は大変貴重な機会となる。 襖絵に至る素描、油彩が代表作品もあわせて紹介する。
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