Resort Showcase
【 文化財や美術品を通して日本の歴史や文化に思いを巡らす 】
五十八面の襖に描かれた美に自分の心が投影される
寺院と人々との関係をもっと身近に
宝厳院は、京都・嵐山に広大な境内を持つ臨済宗天龍寺派の大本山天龍寺の塔頭寺院です。
寛政2年(1461年)に京都市上京区に創建し、幾度かの変遷を経て現在地に移転再興されました。
嵐山を借景する回遊式山水庭園『獅子吼の庭』を有し、そこは江戸時代に京都の名所名園を記した
「都林泉名勝図会」にも紹介されたほど美しい空間。
春は桜や深緑、秋は紅葉に染まり、野鳥のさえずりや風のささやきが心を癒してくれます。
「お寺と一般の方々との関係が、年々疎遠になっているように感じられます。
しかし、お寺とは本来とても身近な存在であり、親しみを持って訪れて自分を取り戻していただく場所です。
宝厳院の再興に当たって、私は特にその思いを強く抱いていました」
と語るのは、昭和42年から宝厳院の住職を務める田原義宣師。
田原住職は自らの思いを叶えるために、本堂の再建に当たってある英断を下します。
それは、本堂を飾る襖絵(障壁画)の画風でした。
【 前例にとらわれず襖絵の制作を女流洋画家へ依頼 】
「本堂の襖絵は、花鳥風月を題材にした日本画や水墨画が一般的ですが、それを見た方は緊張感を
持ってしまうのではないだろうかと危惧しました。
そこで私は、数多くの壁画を手がけられてきた洋画家、田村能里子画伯に依頼することにしたのです」
田原住職は今から約20年前、中国の西安を訪れたときに宿泊先のホテルのロビーに飾られた
田村画伯の油絵と出合い、心を奪われたといいます。
「繊細さと力強さが融和したすばらしい油絵でした。
聞くと、日本人の女性が描いたとのこと、その作者が田村画伯だったのです」
それから十数年のときを経て、今度は同じホテルで田村がはくご本人と偶然ご対面。
おりしも本堂再建計画が立ち上がった時期であり、自らの想いを伝えて襖絵の制作をお願いすることに
なりました。
「歴史を振り返ってみても、お寺の中心となる本堂に女性が絵を描いたことはなく、油絵も前例がありません。
しかい、人々に親しんでいただける絵であれば作者の性別や画風は関係ない、と決断しました」
【 描かれた人物の仕草や表情に引き込まれる 】
約2年の歳月を費やして完成した襖絵は全部五十八面、すべてを並べると60メートル以上にもなる大作です。
『風河燦燦 三三自在』と名付けられたその襖絵には、朝、昼、夜の時の流れと、
33人の老若男女の思い思いの動きや表情が描かれています。
襖の取っ手も田村画伯がデザインしたものであり、仏教とシルクロードの世界に基づいて
象、牛、馬、駱駝、鳥の5種類の動物が形どられています。
「観音様が三十三身に姿を変えたという話と一致する世界に感銘を受けました。
描かれた人物を眺めていると、家族や友人に見えてきたりして、とても親しみが湧いてきます。
まさに私が求めていた襖絵でした」
田村画伯の作品は、田村レッドと呼ばれる鮮烈な赤色を特徴としており、
本堂の襖絵も始めてみたときには鮮やかな色調に驚かされます。
しかし、5分も経たないうちに描かれた人の仕草や表情に引き込まれていく不思議な力を放っています。
描かれた人物を見つめていると、みる人それぞれのイメージが広がってきます。
【 正しいという字は、“一止”と書く 】
全の用語に「七走一坐」という言葉があります。
七回走ったら一度立ち止まって自分自身と対座しなさいという教えであり、田原住職は
「本堂の襖絵や獅子吼の庭が、一度立ち止まる機会になれば嬉しい」と語ります。
「走りながら考えていても、よい答えは浮かびません。
一度止まり、今来た道を振り返ったり自分自身を見つめ直すことで、これから向かっていく正しい道が
見えてきます。
ほら、“正”という字は“一止”と書きますよね」
されに「リゾートとは、まさに一度止まって自分を見つめ直すための時間ではないでしょうか」
と付け加えられました。
“観光”とは“光を観ること”であり、光とは心、つまり自分自身。
リゾートで過ごす空間や時間の中で、心を落ち着かせ、自分自身と向き合ってほしい、
自分を見つめなおしてほしい、というのが田村住職の願いなのです。
宝厳院本堂襖絵『風河燦燦 三三自在』は、2009年12月20日(日)まで特別公開されており、
『獅子吼の庭』も紅葉が美しい11月14日(土)〜12月6日(日)の期間、夜間特別拝観を開催。
ライトアップされた幻想的なこの空間に、気軽に訪れてみてください。
そこで、本当の自分と出会うかもしれません。
大本山天龍寺塔頭 宝厳院 田村能里子画伯筆
本堂障壁画「風河燦燦 三三自在」特別公開
期間:2009年12月20日(日)まで 時間9:00〜17:00
庭園拝観志納料 /一般500円 小・中学生300円
障壁画拝観志納料 /一般500円 小・中学生300円
住所/〒616-8385
京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町36
TEL/075-861-0091
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