Talk Express from JR 東海
第7回 壁画 「季々遊々」
 1989年 千葉県船橋市・中山競馬場


「わが子のいる空間を訪ねて」


 中国・西安で初めての壁画を完成させた翌年に制作し、日本では二作目の壁画となります。
八〇年代の後半からバブル景気も手伝ってか競馬人気も大変な伸びを示し、各地でスタンドの増改築が
盛んに進められました。
ただ中央競馬場関係者の中には、賭博の目的だけでこうしたブームが起こっていることに疑問を抱き、
競馬がもっと優雅で文化的な催し事として日本人に定着できないか、特に女性にも身近で親しみやすい場所と
なるにはどうしたらよいか、と考える方々がおられました。

 はじめVIP席(ゴンドラ席)にタブロウ(通常の絵画)を、とのお話でしたが、それでは特定の方々にしか
見ていただけないので、来場者すべてが出会えるようにと、最終的に正面スタンド出入り口の吹き抜け上方
壁面一杯に壁画を制作することとなりました。
壁画を四十五度前方に傾け、吊天井式としたことで、実際の作業は天井画を描くのに近いものとなりました。
いっそ天井なら姿勢を変えずに一気に進められますが、傾いた壁面はそのつど姿勢をずらし玉をなぞるような
厄介な作業でした。

 モチーフとしては、大和の昔から人と馬が一体となって暮らしてきた日本の象徴として、
童たちと絵馬の交流を描き、両端には現在の競走馬の源流である西域の人と馬を配してみました。
題名も大和の季々の中で喜々として遊ぶ文化を表したつもりです。
 壁画の完成を記念し、当時の場長さんのご協力を得て「帽子をかぶって競馬場へ」というパーティーを催しました。
作家の森瑤子さんが中心となって、少々派手チックな帽子姿の紳士淑女がシャンペンを開けながら競馬観戦を
行うという、何だか文明開化のころのような光景だったことを思い出します。

 その四年後、華やかな思い出だけを残して森さんは亡くなってしまったので、私個人はこの壁画を見ると
胸のどこかが痛みます。
 ただ赤が基調の壁画なので「赤帽子」馬を買うときは、この壁画を見ると馬券がとれるという説も。
一度お試しになってはいかが。       ♪






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7回 壁画 季々遊々