Talk Express
14回 壁画 季の粧い

Talk Express from JR 東海
第14回 壁画 「季の粧い(よそおい)」
 1993年 横浜市栄区 /(株)ファンケル本社ロビー

 インド・ラジャスタンの砂漠、西域シルクロードの果て、北京・上海の街、タイやインドネシアの都会、アジアのどこに行っても女性は
「化粧」をしています。
昨今は男性も化粧をする時代になったようで、化粧は女性の特権とはいえないかもしれません。
「人は何故化粧をするのか」は生物学や比較文化学の重要なテーマの一つのようです。
難しいことはともかく、私の長年のモチーフ(主題)はアジアの女性ですが、実際に現地でデッサンをさせてもらうと、どんなに素朴な民族や
文明的には途上国の人であっても、限られた品物や道具を上手に利用して、彼女たちなりに化粧や装飾に気配りをしていることがわかります。
異民族の女性にモデルをしてもらうとき、言葉が通じないので心を通わせるのには、ちょっとして化粧品とメーキャップの仕方を
教えてあげるのが一番です。
それとお互いの装飾品や衣装の紹介や交換など、女心を喜ばせる方法は古今東西を問いません。

 今回ご依頼があった会社は化粧品を中心として健康食品や栄養剤などを製造販売しておられるとのこと。
本社の玄関に「会社の顔」となるような壁画をとのご要望でした。
そこで長年描きためていたアジアの女性の「化粧をするポーズ」のデッサンを活用して、季節の移ろいの中で思い思いに化粧や
装いをしている女神たちのイメージを作り上げてみました。
成熟した女性の豊かな華やかさではなく、健やかな喜びを体現する清楚さを象徴するようにコスチュームを純白としました。
ただ、純白だけだとどうしても城の分量が多すぎて絵自体を壊しかねないので、白は薄絹とし、レース模様を随所に配しました。
このときの工夫が後年の壁画制作の際に役に立ちました。
 ただし、ここでもすでに出来上がった建物に壁画を後から入れるケースでしたので、壁画の形と大きさには工夫を要しました。
「粧(よそおい)」というテーマへの連想から三面鏡の構想を取り入れることとしました。
それぞれの面で自由に身繕いする姿がお互いに映りあうイメージです。
結局正面玄関から入ると、正面・左右の三面が包み込んでお客様をお迎えするような立体的な構成にしてみました。

 作業する面積が不定形に大きい上に、作業期間も一ヶ月と短く区切られていたために、近場のホテルに泊り込んで一日十数時間、
根をつめて仕上げなければなりませんでした。
そんなわけで壁画の近隣の様子や周辺の方々との交流のゆとりもあまりなく、ただただ壁画制作の過程だけが
私の記憶の映画館に残っています。
会社のほうは大変順調に成長され、わが子も訪問されるお客様と会話をする機会がきっと増えているに違いない、
一度励ましに行こうかしら、と思っています。






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