Talk Express from JR 東海
第11回 壁画 「風の奏」
 1995年 群馬県高崎市/高崎信用金庫本店


「わが子のいる空間を訪ねて」

「カカア天下にカラッ風」とは群馬の風土をあらわす決まり文句となっています。
 私のタブロウ(持ち運びのできる絵画)の長年のモチーフが「風と女」であったことから、
縁の糸がつながったのでしょうか。
「風の奏」は高崎信用金庫本店に隣接する美術館(郷土出身の画家、山口薫氏の作品を
中心とする美術館)の入り口壁面いっぱいに描かせていただいたものです。
 
 どうせ描くなら風の大国で自然と戯れ、命を燃焼している女神たちの群像が見る方の
眼の中
いっぱいに展開するような大きさで、との狙いから縦十一メートル、横十メートルの画面となり、
一面の直描き(現場で描く)壁画としては、私自身の経験上も最大のものとなりました。
絵画で言えば四千号、おそらく日本でも数少ないサイズでしょう。
仮設足場は七層となり、その足場を制作期間の三ヶ月の間、蜘蛛のように絵筆やバケツを持って
数千回昇降し、這いずり回りました。
どんなに大きな作品でも、いつもこまめに足場から降りて全体が見渡せる位置から部分、部分をチェックする
必要があるため、昇降回数が増えてしまうのです。
ちょうど真冬の現場でしたので、底冷えと疲労で足腰の筋肉が硬直するのを温シップと
連日のマッサージで切り抜けました。

 工期が限られている建築現場での制作は、本人が途中で倒れてしまっては、すべてがおしまいです。
まさにカカア天下なみの根性での時間勝負となります。
 短期間ではありましたが、現場の近くに止まりこんで冬の群馬の風を肌身で感じることもできました。
風の吹く風土は厳しい自然というイメージもありますが、一方で「風に立ち向かって生きていく」人々の
生命力や強靭な精神力が連想されます。
私はもともとそうした風土の中でしたたかに、しなやかに生き抜いている女性の形に強く引かれて
いましたので、迷うことなくこの壁画にも取り入れました。

またこの地が発祥といわれる願掛けダルマの強烈な「赤」も風土の色として眼の中に入れて、
壁画の基調色を赤系としました。
赤といっても真紅の赤から土の赤まで数多くの赤がありますが、あらゆる多彩な赤を使ったつもりです。

 完成後5年が経ち(文掲載時)わが子も地元の方々を中心に親しんでいただけるような存在に
なりつつあるようで、ときどきそんな「風の便り」をきくと嬉しくなります。
時間がございましたら、風に吹かれながら「風の奏」の旋律に耳を傾けていただければと。
たしか駅から車で十分以内です。   ♪






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11回 壁画 風の奏(しらべ)