旅の小箱 絵のつぶやき
14回 『 夢見人 』

(C)Noriko Tamura All Rights Reserved.

の小箱  from JR 東海
第14回 壁画 「 夢見人 」
 1991年 世田谷美術館所蔵



 この欄もそろそろ終わりに近づいてきましたので今回はタブロウ(持ち運びできる絵)についてお話を。
 この十五年、いろいろな機会に恵まれて、国内やアジア各国に四十点を越す壁画を残すことができましたが、
もともとは(というより今でも)フツーの絵描きです。
タブロウと壁画とは、絵描きという点ではなんら変わるものではありませんし、昨今、イラストやCGなどとも同じ分野としてくくられることもあり、
ことさら区別を考えてみる必要はないのかもしれません。
 ただ、壁画という、予め定められた空間に置かれる、いわば環境アートのようなものと、どんな生い立ちにせよ、
いったん絵描きのアトリエから出てしまえば、後はその運命は人まかせ風まかせのタブロウとでは、少なくとも創り手側の意識には
かなり違うものがあります。
また、その違い、切り替えをしっかり肝に銘じておかないと、壁画にしてもタブロウにしても、どこか作品に「ゆるみ」のようなものが
出てしまうと感じています。

 タブロウについていえば、作者としては「向き合うものは自分のみ」「自分で設定した厳しいところをよじ登ってゆく」その一歩一歩の記録
という側面が、いやでも意識されます。
作者はタブロウの運命を握りきれない分、余計にそこにこめる自分の思いを深くしておかねばなりません。
どなたのおそばに行くにせよ、その絵と語り合う方と濃密な時間を分かち合い、さりげない灯のような存在として生きてくれたならな、
と未練を残しつつアトリエから送り出すのです。
絵描きの切ない気持ちをわかっていただければ・・・(でも、アトリエの片隅でほこりをかぶって埋もれているタブロウよりずっと「親孝行」
だと喜んでいるのも事実です)。

 このタブロウ「夢見人」は、先年シルクロードで出会った老人の、奥深い美しさに息を呑み、何とかそれを掬いとろうとした作品です。
作者が生きている間に再び会える運命にありそうな、数少ない作品でもあります。


【 作品へのアプローチ 】
世田谷美術館:東京都世田谷区。
東海道新幹線東京駅よりJR山手線にて渋谷駅乗換え、東急田園都市線用賀駅下車、徒歩17分。


                                  (C)Noriko Tamura All Rights Reserved.