Natural Life 2008年12月号より

「タムラレッド」と呼ばれる赤の世界とアジアの女性の姿を描くことで
知られる洋画家・壁画家田村能里子さん。
今年、京都・天龍寺の塔頭寺院「宝厳院」本堂に奉納される襖絵を
完成され、新たな話題を呼んでいます。
美しい作品が生み出される背景や田村さんを支えるご主人との
関係について、東京・世田谷のアトリエ兼自宅でうかがいました。









■女流洋画家として初めて
      禅宗寺院の襖を任される

 
 洋画家である田村能里子さんが1年半あまりの
歳月をかけ、描き上げた襖絵が
「風河燦燦燦三三自在」。
2009年春に京都・大本山天龍寺塔頭「宝厳院」に
奉納されるが、女流洋画家が禅宗寺院の襖絵を
任されたのは初めてのこと。
「タムラレッド」と呼ばれる独特の赤の色彩の
中に、三十三人の老若男女が描かれている。
田村さんがこの襖絵に込めた思いとは、
「天龍寺の襖絵は何百年と残るもの。
時代を超えて、国も越えて「対話できるもの」を
残したかった。
ですから、絵は大自然の風雅と風紋、燦燦と輝く
太陽と月、生成りの衣に身を包んだ、三十三体の
老若男女だけを描きました。
宗教的な枠組みにとらわれず、見る人それぞれが
自由に絵とコミュニケーションできる作品を
目指しました」
 描かれた三十三人の中に、自分の身近な人や
自分に似た人を見つける・・・。
襖絵を前にそんな不思議な体験をする人も
少なくない、そんな仕掛けも工夫した。
 

「絵を見た人が眠っていた記憶を呼び覚ま
したり、自分の菩薩様に手を合わせたり、それぞれの物語を展開してくださるといいな」
襖絵の、枠や引き手にも趣向が凝らされている。
「黒い枠はワインカラーに変え、引き手は5種類の動物のレリーフを掘りこんだものを
デザインし、職人さんに細かいところまで、注文をつけて手作りで作ってもらいました。
今回は襖絵全体が完成された環境アートになったことにも満足しています。

■絨毯を織り続けるように
   絵を描くのが私の人生


 襖絵はもちろん、田村さんの
ほかの作品にも、アジアの女性の
姿が多く描かれている。
そこには、田村さんの人生と
重なる女性たちがいるのだという。
「シルクロードの奥地に行くと、
歌を歌いながら絨毯を織っている
女性たちがいます。あの姿はどこか
自分に重なるんですね。
赤い絨毯を、下地には青や黄色や
いろんなの糸を交ぜて、絵模様を
描いていく。
織り成す糸は、そのとき、
そのときどきで関わってきた人たち。
ご縁をたくさんいただいて、
絨毯が出来上がります。
そして、その絨毯は美しいもの、
残っていくものであって欲しい。
絨毯を織り続けるように、
絵を描いているのが私の人生かな」
 織り成す糸=出会う人々との
偶然を大切にしている田村さん。
「出会った多くの人たちとは、
偶然が必然に変わるような関係で
ありたいなと。
それはもっとも大切なパートナーも
同じ。



長い年月を経て、どうしてもなければならない存在になる。そういう意識も大事なんですね」
夫とは心をともにして生きてきて「お互いわかりあえるもの」を感じます

■芸術家であっても
 普通の家族関係を大事に

 田村さんは、商社に勤務
されていた夫・雄二さんと
結婚してまもなく、40年。
雄二さんとは、毎朝一緒に
散歩をするという
仲むつまじいご夫婦だ。
「もともと夫のメタボを
改善するために、散歩を
始めました。
最初は無理やり連れて行く
感じでしたが(笑)、
最近では自分から積極的に
出かけるようになって。
夫はジムにも通って14sの
減量に成功。
どちらが体調を崩しても
大変ですから、健康管理
には気をつけていますね」
 雄二さんは、現在は
仕事上でもパートナーと
してサポートしてくれて
いる。
「事務的業務を手伝って
くれていますが、女性では
考え付かないアイデアを
出してくれたりするのが、
面白くて。
これまで、夫は商社マン、
私は画家として、それぞれ
のフィールドでひとり
ひとりでやってきましたが
今は自分たちの力を出し
合って、寄り添っている
感じです。


あらためて『私の家庭はここなんだ』と実感する日々ですね」
 雄二さんの海外赴任に同行し、そこで出会った風景や人物に魅せられ、
数々の作品を生み出してきた田村さん。
姑とも長く一緒に暮らし、芸術家であっても、普通の暮らしを大事にしてきたという。
「『砂漠に3ヶ月絵を描きに行ってきます』」といって出かける私を、温かく送り出してくれる
ような姑でした。それでも普通の人が思う心をキャッチしながら絵を描き続けてきたつもりです。

■どう生きていきたいか夫婦でイメージをすり合わせる
 協力的な家族に恵まれ、才能を開花させていった田村さん。
公私共にパートナーである夫との夫婦円満の秘訣とは?
「年をとると自分たちの思うとおりに生きたいですが、お互いが好き勝手なことをするのではなく、
夫婦でそのイメージをすり合わせながら、行動をともにすることも大切。
夫婦喧嘩もしますが、上手に切り替えて長引かせず、楽しんでやるようにしています」
 今後も夫婦でお互いを活かしながら、「夫とは心をともにして生きてきて、一心同体のようなもの
年をとると愛情の形も変わりますが、夫には『理解以上』のものを感じます。
60を越えると時間も限られてきますし、作品も面白いものだけ選んで作ることになるでしょう。
今後も今までの延長戦ですが、少し余裕を持って、楽しく、いい人生を歩んで生きたいですね」

◆夫・田村雄二さんから一言
3年前に総合商社の第一線をリタイアし、現在は私が家内(事務手伝いも含む)、
彼女がアトリエ・現場という感じで、妻の仕事をサポートしています。
悠々自適となった私達にとって、一番大切なことは、心と体の「自分の健康管理」。
私が体をこわすと、即パートナーである妻の仕事に負担がかかります。
そのため、二人での朝の散歩や事務通い、週1ペースでのゴルフを心がけています。
老いは誰にでも来るものですし、体力も落ちてきますが、無理にあらがうのではなく、
自然に徐々に坂を下っていけるといいですね。
その間はパートナーとも無理をせず、楽しい時間をたくさん持ちつつ暮らしたいです。



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田村能里子オフィシャルホームページ:過去の掲載記事婦人公論
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2008年12月号掲載
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