【 毎日新聞 2009年10月20日(火)掲載 】

 しんの強さ、りんとした女性

  洋画家の田村能里子氏が描く女性像は、遠くを見つめている作品が多い。
 何を考えているのかと想像力をかきたてられ、小さな画面でも広がりを感じさせる。
 インドやタイでの生活、シルクロードなどへの旅で培った世界観の表れだろう。
 東京・銀座の和光ホールで開催中(11月7日まで、日曜休み)の個展では、女性像44点と、
 都内の企業のビルに近々設置される通算52作目の壁画を特別展示している。

  今回は、黄味がかった紙やコルクにコンテで描いた素描を多数展示した。
 田村氏にとっての素描は、単なる油彩の下絵ではなく、「素の線の美しさを表す重要な表現」という。
 りんとした女性の表情と身体が、迷いのない線で表現されている。
 油彩画も、赤みのある独特の絵肌に浮かぶ、東洋的な細かい線が印象的。




  【 毎日新聞 2009年10月28日(水) 】

  田村能里子さん個展 銀座  特別公開の壁画ほか 女性モチーフ40点

  アジアを舞台に人物像などの創作活動を続ける画家、田村能里子さんの個展が東京・銀座の
 和光ホールで開かれている。

  今回は、壁画「美神たちのざわめき」(縦1・8メートル横6・6メートル)を特別に公開しているほか、
 中国やタイなどアジアの国々で出会ったたくましくしなやかな女性たちをモチーフにした油彩や素描合わせて
 約40点を展示している。
 田村さんは「皆さんには目で楽しんで好きなように感じてほしい」と話している。
 10月28日午後2時から会場田村さんのギャラリートークが開かれる。
 展覧会は11月7日まで。



  【 讀賣新聞(大阪版)2009年10月25日(日) 】

  東洋の繊細さ壁画に

  日本文化の奥深さを各界の専門化が語り合う関西大学・文化フォーラム(関西大学主催・読売新聞社後援)
 が3日、東京・有楽町のよみうりホールで開かれた。
 宮内庁稜墓課主席研究官の徳田誠志さん、いずれも関西大客員教授を勤める画家の田村能里子さん、
 作家の辻原登さんの講演や、高橋隆博教授が司会を勤めるパネルディスカッションが行われた。
 考古学や壁画製作、日本語の問題など、文化の最前線で活躍する講師陣たちの臨場感ある話に
 聴衆は耳を傾けていた。

  <講演 : 画家 田村能里子さん >
 
  20年前から各地で、壁画を描く仕事をしています。
 最初は中国・西安のホテル「唐華賓館」でした。
 砂漠に近い場所なので、冬は氷点下10度、夏は40度を越える。
 建築中のホテルに足場を組み、毎日10時間は立って、長さ60メートルある壁に向かいました。

  下塗りをしていると、工事現場で働く中国人たちが、「日本から女のペンキ屋が来た」「俺、手伝うぞ」
 などと声をかけてゆきます。
 「これを食えよ」と、新聞紙に包んだ水餃子を渡されたこともある。
 言葉ができないので、「ハオ、ハオ」と返事しながら食べました。

  若いころから私は、油絵の絵描きになるつもりでした。
 中学、高校、大学と絵筆を握ってきました。
 油絵は西欧から来たものですが、20代でインドに4年暮らし、40歳を過ぎて中国の西域地方に滞在するうち、
 日本の美について考え始めました。

  油絵は、太い筆を使う。
 ゴテッとしたタッチになります。
 ですが西欧の人たちと中国で話をすると、書道の毛筆で書く細い線にあこがれるといいます。
 考えてみると日本画の線も細い。
 ならば、私は東洋人のあの線描を油絵で表現しようと思いました。

  そのうち唐華賓館の話があり、そのほか客船の「飛鳥」、銀座のファンケルスクエアなど携わった壁画は
 50作を超えます。
 すばらしい出会いに恵まれました。
  昨年は、京都・天龍寺の塔頭宝厳院のふすま絵58枚を一年半かけて描きました。
 伝統があるお寺で、日本画家ではなく油絵の画家を起用した勇気にこたえたかった。
 寺の立つ嵐山の緑の中で、生命が燃え盛る。
 真っ赤なふすまに、33人の人物を描きました。
 観音菩薩が33の姿に変化し、人を救済するという仏教の教えに基づいています。

  絵は変色しないよう、アクリル絵の具を選びました。
 100年、500年、うまくゆけば1000年持つはずです。
 絵の題名は、散歩しているときに決めました。
 「風河燦燦三三自在」

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田村能里子展 〜 美神たちのざわめき 〜