『讀賣新聞 こころのページ 文化 2009年 11月9日(月曜)』
技・風景・文字 ・・・・・・未来へ
日本文化の奥深さを各界の専門家が語り合う関西大学・文化フォーラム
「日本の美とこころ」(関西大学主催、讀賣新聞社後援)が10月、東京・有楽町よみうりホールで開かれた。
宮内庁陵墓課首席研究官の徳田誠志さん、いずれも関西大客員教授を務める画家の田村能里子さん、
作家の辻原登さんの講演や、高橋隆博教授が司会を勤めるパネルディスカッションが行われた。
中国・西安のホテル「唐華賓館」をはじめ、20年間で50作あまりの壁画を描いてきた田村さんは、
制作にあたっての心境の変遷を語った。
繊細な筆遣いが特徴の画風は、インドや中国などアジア各地に滞在するうち、東洋人の細い描線を
自作の油絵に生かしたいと思うようになり生まれたという。
辻原さんは作家の立場から、文字を持たなかった日本が、中国から伝わった漢字をどう自国の文化に
消化したかを語った。
遣唐使の一員として大陸に渡り、現地で客死した安倍仲麻呂や井真成の例を挙げ、「先人の苦労と喜びを
改めてかみしめたい」などと結んだ。
徳田さんは関西大で考古学を納め、前方後円墳の研究を続けている。
国内43都府県で見られる前方後円墳が、実は韓国・光州市などにも存在し、日本と朝鮮半島の文化交流が
うかがえる事実など、最新の研究動向について概説した。
一方パネルディスカッションでは、文化の最前列に立つ3人が未来の日本に何を残したいか語った。
田村さんは「陶器や塗り物など、日本には伝統的な美がある。古い技を大切にしながら、
新しさをつけ加えてゆきたい」と語った。
徳田さんは「古墳の話をすると、文化財に指定されたフェンスに区切られた場所だけ守ればいいと
勘違いする人がいる。だが、それらを取り巻く風景も大切にした」と語り、
高橋教授は「『国敗れて山河あり』と言うが、我が国の歴史で山と河が今ほど汚れた時期はありません」と応じた。
「このままでは日本語が廃れ、英語に取って代わられるのではないか」。
刺激的な問題提起をしたのは辻原さんだ。
現代作家の多くが手書きではなくパソコンやワープロで文章を作り、文字を書かなくなったことを危惧しているという。
さらに「日本の文字が生まれた古里は関西だ。平城京のあった奈良がある。
琵琶湖から流れる淀川は、文化の栄えた京都、大阪を伝わって瀬戸内海に流れ出る。
日本文明の真の骨幹がある関西を何より守らなくてはならない」と語り、会場をわかせた。
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