≪ TALK SQUARE ≫

 自分らしさを大事に「 今に生きるかたち 」を描いています。

 − 洋画家としては珍しく欧米より、インドや中国と縁があるようですね。

 美大を出てしばらくは子供に絵を教えていましたが、その頃インドに渡るチャンスがあり、絵の素材としての
インド女性に惹かれてカルカッタに三年半滞在しました。
インドの女性は骨格もしっかりしているし、手足の指先が長くて表情豊かです。
顔も立体的で、眼に主張は感じられます。
カルカッタから帰国してからも、インドや中央アジアに通って乾いた空気や風に触れ、そこで自分の「絵肌」を掴めたと思います。

 − 壁画を描かれるようになったきっかけは何ですか。

 インドのラジャスタン地方に、壁画で埋め尽くされたジュンジュヌという街がります。
周りは砂漠で何にもないようなところなのですが、人々は知恵を絞って暮らしています。
たとえば水は素焼きの水瓶を使って冷却し、殺菌しています。
家の壁には、そこにはないみずみずしい果物やバラの花、車などが描かれ、不毛の砂漠に住む人の心を豊かにしているのです。
大きな壁画が空間を、そして環境を変えて人々の心を潤しているのを見て、いつかは自分も壁画を描きたいと考えるようになりました。

 − それから壁画を描かれるようになったのですね。

 中国への留学を契機に、日中合併のホテル「唐華賓館」の壁画を描き、それ以降壁画の仕事が増えました。
私は働きすぎて疲れている人を癒せるような、心も頭もほっとする、元気の出るような絵を最近開発された
アクリル絵の具で描いています。
アクリル絵の具で描いた壁画は発色が鮮やかでひび割れせず、太陽光線に強く、ガラス状の被膜が絵を
保護するので手入れも簡単です。

− 壁画を描くには体力がいりそうですね。

 ええ、体力・気力とも結構要りますね。それと継続力かな。かな。
今私は先生につかず弟子も持たないで、壁画の制作も一人でやっています。
ですから、たとえば横十五mずつ四面ある「唐華賓館」の壁画は下塗り方完成まで一年半かかりました。
通常、中国の壁画制作はグループで共同作業するとのことで、周りの人々には驚かれました。
でも、先生につくと、萎縮して成長に歯止めがかかる気もします。
私は絵描きは1人でやって、1人で終わるということでいいのではないかと思っています。



 − 活動される上で、大切にされていることは何ですか。

 私が大事にしているのは、毎日の地道な素描(デッサン)です。
誰にでも線は引けますが「素を描く」のことば通り作者の体調、精神状態までがそのまま線に現れてしまい、演出してもごまかせません。
どんなに忙しくても毎日モデルをデッサンし続けてこそ、私自身の「東洋の線」が描けるように思います。
 結果的には順調そうに見えても、若いときには公募展の落選など私も多くの挫折を経てここまで来ました。
「『思い』をいつまでもいだき続けること」が私の信条で、期待していた結果が出ないときには、その機会に考え直して何かをつかみ、
それを継続してやっていくうちにいつの間にか光り輝くものが手に入っている、そんな感じです。


 − 最後に、長く外国で活動されて立場で最近の日本を見ていかがですか。

 特に最近の若い方は、手足が長く、体格はよくなっていますが、少しひ弱な感じがします。
協調性を優先して、周りの人の顔色を見ながら意見を言うような日本の生活が外見にも現れているのでしょうか。
頑張りや、根気、粘り強さでも物足りなさを感じることもあります。
明確な自分の意思があって、それが顔かたちに現れている場合が多い他の国の人たちと対照的ですね。
 せっかくのびやかな時代に生きているなら、もっと自分の意思を通してもいいのではないでしょうか。
型通りが安心でも、自分なりの知恵や工夫を凝らせばもっと面白く、楽しく生きられる気がします。







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新日鉄社内誌 2000年冬号 掲載