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「 本 」読書人の雑誌(講談社)
2009年8月号




表紙シリーズ
現代アートの現場から−

風河燦燦 三三自在 2008
アクリル キャンパス
大本山天龍寺塔頭宝厳院本堂襖絵
【表紙使用部分】
室中 : 北側中央四面 206×327.2cm



〈 表紙解説 〉

風河燦燦 三三自在
現代アートの現場から    高階秀爾

画面全体を覆う赤い輝きに包まれて、静かに佇む二人の女性、その周囲に爽やかに風が吹き抜け、
背後には遠く赤い大地が広がる。
ゆったりとした白い衣装を身にまとってお互いにじっと見詰めあう二人の姿は、
何かの舞台の一場面でもあるかのように思わせる。
だが舞台であるとするなら、その主役は、人間たちであるよりも、全てを包み込む広大無辺な赤い大地、
燦然と輝く光に満ちた悠久の大自然だと言うべきであろう。

京都嵐山に位置する臨済宗大本山天龍寺塔頭宝厳院の本堂は、中央の室中をはさんで、
上間、下間の間がひと続きの襖絵五十八面で飾られている。
横につなげると全長六十メートルにも及ぶと言うその画面は、大部分が鮮烈な赤で覆われ、
見る者を幻惑の世界へと誘い込む。
輝かしい朝の陽光に照らし出された東側から、深い夜の静寂に包まれた西側まで、ゆっくり流れる時間の
経過に伴って微妙に色合いを変えるその赤い大地の上に、老若男女様々の人物が、
あるものは立ち姿のまま、ある者はしゃがみ、坐り、あるいは横たわるなど、思い思いのポーズで登場する。
人物たちは、無言のままほとんど何の動きも見せないが、それでいて生身の人間としての確かな存在感を
失ってはいない。
それは何よりも作者の卓越したデッサン力によるものであろう。
田村能里子は、これまでたびたびインド、タイ、中国などを訪れ、その土地に生きる人々の姿を的確に
写し取って作品に生かして来た。
この襖絵においても、その優れた特質は存分に発揮されている。
その上、現実世界の観察から生まれた人物たちを、日常の次元を超えた悠久の世界に住まわせ、
現実的なものと超越的なものを一つに重ね合わせた豊麗な表現を達成した卓抜な構想と手腕は、
賞賛に値するものであろう。
描かれた三十三人の人物は、三十三身に身を変えて世を救うという観音菩薩の化身でもあろうか。

 造形表現としてそのような離れ業を可能ならしめたものは、画家田村能里子独自のあの鮮やかな赤である。
赤は田村芸術の基調であるばかりではなく、人間と自然、現在と永遠とをつらぬく根源的な生命の色だからである。
嵐山の大自然に包まれた本堂は、いわば自然界の体内のようなものであり、それ故にそこを飾るのは、
「命が宿り燃えている色、赤以外にはありえなかった」と田村自身語っている。
この強い信念によって、記念すべき現代の傑作が生まれたのである。

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