Talk Express
6回 壁画 桜人・季の光

Talk Express from JR 東海
第6回 壁画 「桜人」「季の光」
 1995 - 1998年 タイ・バンコク/ 日本亭


「わが子のいる空間を訪ねて」

 私事ですが、たまたま夫の転勤を機会に、三年間バンコクにもアトリエを構えて南アジアの人と
風土に接する経験をしました。
 インドを出港した私の絵画航路は結局、中国・タイ・日本と、アジア周航のようなコースを
辿ることとなりました。
その両端がインド・中国とするとタイは地理的な位置だけではなく、風土・文化もまったく
両方の中間・混合
といった味わいで、自分のアジア体験の集大成のような時間でした。
でもタイの人々の特性や、自分自身が中年期以降の出会いであったころもあってか、異国での違和感や
軋轢などは殆ど感じること無く、楽な気分で生活を楽しむことができました。

 都会の喧騒や渋滞はバンコクもその例にもれませんが、洗練されたアジア美が溢れる国際級ホテルや
お洒落なレストランには事欠かず、以外にロマンチックな街でもあります。
亜熱帯性気候ですから年中快適というわけにはいきませんが、それでも溢れるばかりの陽光に豊かな緑や
花々がきらめいている中にいると、色彩の快感に身を委ねているようにうっとりとしてしまいます。
私の絵の制作もとくに色彩面で手にとるチューブの色が微妙に変わっていきました。

 楽しませてもらったこの地に何か自分のいた証を残したい、という絵描きの変わった願望と、
この地に根をおろし日本文化の代表選手でもある和食料亭を細腕きり回している日本人女将の
心意気とが合致して、このお店の空港店と市内の目抜き通りの二店に壁画が入ることになりました。
ただこの作品には普段の私の絵に出てくる女神のモチーフはなく、ひたすら自然の光と満開の
しだれ桜を描いています。
タイの陽光で目覚めた自分色彩感覚を思い切りのびやかに表現してみたい、タイや海外の方々にも大和の
花々の下で優雅にお花見弁当をつかう楽しさを味わってもらえれば、との期待からでした
(でもちょっと本音をもらすと、タイは大国ですので肖像はすべて王族のみ、
絵に人物が登場するのは控えたほうが良いという、お国への配慮もありました)。

 バンコク方面にお出かけの機会がありましたら、二店とも至便の所にありますので、
ちょっと覗いて頂ければ。
お味のほうも人気が証明しています。♪



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