Talk Express
2回 壁画 風わたる

Talk Express from JR 東海
第2回 壁画 「風わたる」
 1999年 大阪天満橋OMMビル


「わが子のいる空間を訪ねて」

壁画の仕事に手を染めてから十二年が過ぎましたが、この作品が現在のところ最新作であり
(1999年において)二十四作目となります。
ビル開館三十周年を記念して、リニューアルの一環として置かせていただきました。

 設置場所が京阪・地下鉄天満橋駅からの入り口ホールであり、ビル内というより、
半ば一般通路の役割を果たしている所でもあります。
 壁画はタブロウ(持ち運びの出来る絵画)とは異なり、場所が固定されますので、
当然その空間・環境に相応しいものが要求されます。
また特定のホテルやホールであれば、その個性にマッチしたモチーフ(主題)や
色調にしなくてはなりません。
 逆に言えば、それらの制約や条件があれば、作品の方向は自然に決まってくるともいえます。
たまたま今まで一般通路のような公共性の高い場所の制作経験はありませんでしたので、
私にとっては新鮮な気持ちで取り組めました。

 まず現場に数度、時間をずらして立ち、人々の動線や速度を観察した結果、
この場所は壁画を含めて地下道のオアシスのような安らぎと、リフレッシュを果たすには
最適な位置づけであること、同時にファッションビルの玄関口に相応しい、シックでお洒落な
イメージが必要であることが掴めました。

 絵の構想を練る一方で、空間全体を小公園のように仕立てるために、壁画の前面に実物の
花壇を入れること、全体をアールの稜線でまとめて優しい空間に、そのための照明の見直し
などを施主・施工の方々と打ち合わせました。
 壁画は単独では存在できないものであり、生かすも殺すも環境しだいです。
幸いにも今回は、関係者の方々の全面的なご理解とご協力を得て、ほぼイメージどおりの空間に
置かれることになりました。
 
 まだ生まれて数ヶ月であり、街の空間にドッシリとした存在感を持つには、
まだまだ時間がかかります。
正直申せば、この先、本当に行きすがりの街の方々と会話を交わしたり、可愛がっていただけるのかしら、と一抹の不安を抱いてのスタートです。

 この気持ちは今まで送り出したすべての壁画も同じですが、今回は不特定な対象となるだけに
なおさらです。
でも最近、ビルの関係者から
「入り口ホールの光景が一変しました。歩く速度を緩めて横目で眺めていく人、
カメラを構える人もかなりいます。
通過口に過ぎなかったような空間の空気が、濃くなったような感じですよ」との報告が、
 その調子、その調子。ガンバレわが子「風わたる」。♪




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